走らんか副社長
【日光御成道 南行】

28区 浦和~鳩ヶ谷

酷暑の中、埼玉高速鉄道の終点浦和美園駅から、駅前の大型ショッピングモールとは反対側に出ると、まさしく駅裏という雰囲気で、人通りが少ないアスファルト道路をカマキリが散歩中だ。今日も暑くなりそうだねえ、こんなところを歩いていたら熱中症になるよ、お互いにね、と会話しながら南下する。

今回は、出発してすぐに坂道を登り、そのまま高台を進んだあと、鳩ヶ谷の市街で坂を下りて終わる。関東平野の中で、ほんの少し高くなった大宮台地の端の部分を南へ進むコースだ。

住宅が途切れた場所からは東側に拡がる平野部が見渡せる。日光街道は、その低地を江戸と宇都宮をほぼ最短距離で結んでいるが、この日光御成街道は、高台の上を少し遠回りして走っている。少々距離が長くても、雨が降ればぬかるむ低湿地よりは台地の上のほうが歩きやすいだろうし、なによりも将軍が通る道としては、庶民を見おろしながら一段高い所を進むのがふさわしい、と判断されたのだと思う。こんな微妙な地形は普通の地図を見ただけではわからず、現地に来てはじめて納得するものだ。
 


江戸から3番目の宿場、大門宿には道の両側に当時の本陣と脇本陣の門がそのまま残っていて見事なものだ。宿場町は明治以降、地域の産業の中心として発展したところと、そうでないところとがあるが、ここは後者で、大門という地名は残っているものの、さいたま市内の普通の住宅地だ。都市の中心にならなかったからこそ建物が残った、と言えないこともないが、説明板にここは個人の所有である旨の説明があり、所有者の方が代々苦労して守ってこられたからこそ、今この建物が存在しているのだ、と頭が下がる。

このあたりは植木の栽培が盛んな土地で、業者の庭先には、きれいに剪定された盆栽風の庭木や、実をつけた果樹が出荷を待っている。梅の季節はとうに終わったと思うのだが、完熟を過ぎた実が地面にぼたぼたと落下しており、もったいない。梅酒が・・・。

この一帯は大宮台地のへりにあるので、高台、斜面、低地それぞれを生かして、その地形に適したさまざまな樹木を栽培できることから、植木を育てる産業が発展した。と、今日最後に訪れた郷土資料館で学んだ。
 


今日のコースは道幅がとても狭い。これまでに走った中では、今市~鹿沼間の日光杉並木の中を通る道が狭くて難儀したが、それと甲乙もしくは丙丁つけがたい悪条件である。走るのは諦めて歩くしかないが、大型トラックやバスとすれ違う時には、立ち止まってやり過ごすこともしばしばだ。それにしても、鳩ヶ谷に近付くにつれて回送中のバスがやけにたくさん通るな、と不思議に思っていたら、通り沿いにバス会社の車庫があるのだった。鳩ヶ谷のバスだけに、はとバス、なんてことはなくて国際興業バスさんでした。

ところで、バスの色と私の服装が見事に合っていて、シャツの色はこうでねぇと、と言わんばかりだったので、記念撮影をさせてもらった。実は先月、緑色のランニングシューズを買ったばかりで、今日履いていれば完璧だったのだが、違ったのが残念だ。


道中の神社にはできるだけお参りするようにしているが、新井宿の子日(ねのひ)神社には、岩山の上で姿勢を低くして周りを威嚇する、なかなか実際の犬(獅子)の姿に近い狛犬がいた。

子日神社の狛犬

氷川神社の狛犬

また、鳩ヶ谷の氷川神社は、特に行事が行なわれているわけではないのに、地元の人たちが三々五々訪れておられ、地元の氏神様として親しまれている様子がうかがえた。その門前の狛犬は、玉にかぶりついて遊ぶ子犬をやさしく抱えている。これまでに、玉を抱えた狛犬や、子犬を連れた狛犬は見たことがあるが、その両方を持ったものを見るのは初めてで、狛犬愛好家見習いとしては、なかなか興味をそそられる。


鳩ヶ谷は、街道沿いに歴史ある町並みが残る宿場町だった。日光御成街道は、幹線道路として拡張整備されておらず、鉄道も2000年代に入って埼玉高速鉄道が開通するまで通っていなかったことから、ここはいささか不便な地域として都市化の波から少し取り残されていたようだ。昼食に入った店のご主人が「鳩ヶ谷は、見るものが何もないからねぇ。」と言っていたが、なかなかどうして街全体が昔の面影を残した落ち着いた雰囲気で、ひときわ古い酒屋が今も現役で営業していたりしている。

ただ、駅が開業してからできたと思われる新しいマンションがいくつも建っており、これから急速に発展して普通の街になってしまうのだろう。おまけに、鳩ヶ谷市は2011年に川口市に編入されて市としてはすでに消滅しており、なんだか寂しいものだ。


神社の話題に戻るが、鈴を鳴らす縄をつかんで大声でお参りしている先客に出会った。ミンミンゼミが、もっと暑くなりますように、とでもお願いしているようだ。

ミンミンゼミのうるさい(失礼)鳴き声を聞くと、暑さが一層増幅されるように感じるが、それは、けっして心地よいとは言えない音色のせいだけではなく、鳴き声のリズムがつかめないからだと思う。「み~んみんみ~ん」かと思えば、「み~んみんみんみんみんみんみんみ~ん」だったりで、「みん」の回数が一定ではないのだ。たぶん、異性を口説くために、セミなりにいろいろ工夫しているのだろうが、一定のリズムでない音楽を聞かされるのは落ち着かないので、何拍子の曲なのかをはっきりさせてから歌って下さい、と蝉族には強くお願いしたい。

2013年8月

今回の走らんかスポット