走らんか副社長
【番外編(連載126回)】

自粛中 そろそろ自粛も終わりか海の生き物

22.ヒラメ(平目)とカレイ(鰈)(魚類)

前回、平べったい魚について書いて、その中でヒラメとカレイは似たようなもの、と一括りにしてしまったが、それはいささか乱暴だったので補足しよう。

ヒラメとカレイは、英語ではまとめてflat fishと言うらしい(小学館日本大百科全書)が、日本では“左平目に右鰈”つまり、腹がこちらにくるように魚を置いたときに、頭が左にあるのがヒラメ、右にあるのがカレイという見分け方が有名だ。いずれにしろヒラメとカレイの違いは、人が右ききか左ききかの違いと同じくらいに考えていたのだが、勉強してみるとそんなに単純なものではなかった。

ヒラメとカレイの生態について書くと、①孵化したばかりの稚魚は普通の魚の姿なのだが、成長するにつれて体が平たくなり、眼が片側に移動する。②左ヒラメに右カレイの原則とは逆の種類もいる。③突然変異的に左右逆の個体も発生する。④ヒラメは活発に小魚を食うために口が大きく、カレイは海底の小動物をおとなしく食べるので口が小さい。という具合だ。

この④の特徴について、先月私が描いた絵を見直していただきたいのだが、左のヒラメは口を大きく、右のカレイは小さく描いているのだよ。こんな細かなところまで気を配っていることに気付いて欲しいなぁ(すみません。生意気なこと言っています)。

食材としては、カレイにはマコガレイ、アサバガレイ、イシガレイなどの種類があり、また生物としての名称ではないが、地方によって笹カレイ、柳カレイ、城下カレイなどと名付けられた種類があって、料理も刺身、煮付け、唐揚げ、干物など幅広く食されている。このようなカレイなる一族に比べると、ヒラメは多くの種類は知られておらず、料理も刺身にすることがほとんどのように思う。おっと、舌平目のムニエルという洋食メニューもあった。

ただ、ヒラメといえば足のふくらはぎの内側にヒラメ筋という筋肉があることを忘れてはいけない。この筋は瞬発力ではなく、持続して体を支える働きをつかさどっているので、長距離ランナーにとってはたいせつな筋肉なのだ。しかし、なぜヒラメなのか、カレイ筋ではだめなのかは知らない。


23.アラ(クエ)(魚類)

九州でアラと呼ばれている魚の本名はクエという。アラという名の魚も別にいるのでややこしいが、ここでは九州のアラについて書こう。

弊社の本社がある唐津で毎年11月2~4日に行なわれる祭り“唐津くんち”では、各町の中心的役割のお宅で、このアラの煮付けがふるまわれる。また11月に福岡で開催される大相撲九州場所では、力士が食べる鍋の具材としてアラは欠かせないらしい。しかし、昨年は両イベントとも行われなかったし、今年も大人数で会食できる状況ではないので、人にとっては寂しいことだが、アラは「助かった」とほっとしていることだろう。

弊社では一昨年まで、唐津くんちに合わせてアラの煮付けを調理していた。大きいものでは一匹10kg以上にもなる魚を丸のまま煮るのは一般家庭では無理なので、工場で依頼を受けたのだ。たいへん手間がかかる作業なのだが、祭りを盛り上げるために工場の従業員がていねいに調理してくれている。写真は、煮あがったアラにさらに煮汁をかけて照りを出しているところ。

なぜ、この魚(クエ)をアラと言うのかという疑問なのだが、「さあクエ」「アラうれしい」という会話がもとになったのかもしれないが、“アラ”には魚の身を取ったあとの頭と骨、という意味もある。そして昔から日本には、庶民がぜいたくをするのは良くないという風潮、あるいは謙遜するのが美徳という文化がある。だから例えば、「昨晩は何を食べたのか」と聞かれて、「魚のアラを煮たものです」と答えておけば、本当はアラ(クエ)の煮付けだったとしても、「そうか、魚の骨まで無駄なく食べるとは良い心がけだ」と思われる。なるほど、うまいこと考えたものだ(あくまでも私の説です)。

もし、食べたのがほんの小さいアラで、けっしてぜいたくではなかったとしても、「コアラを食べました」と言ってはいけません。

2021年10月