私の似顔絵
(辛亥新春、昭和58年に
描いてもらいました。)
会長コラムへようこそ。

 唐津で作られた醤油が、横須賀のうなぎのたれとなる。
 そこには、人と人との深いつながりがありました。
 今月は、永年 宮島醤油を愛用してくださっている横須賀の『千年屋』さんを訪ねました。
〜宮島醤油 御贔屓(ひいき)のうなぎ屋さんを訪ねて〜
炭火でじっくりと焼いたうなぎはツヤがある。
 「宮島さん、関東の某テレビ局の“グルメの旅”という番組で、横須賀のうなぎ屋さんが、九州は唐津の醤油を使って、すばらしい味を出している・・・と放映していましたよ」
 日本醤油協会の専務さんからお話をうかがったのは、昨年の暮れだった。
 その後、弊社の担当者に尋ねると、「電話で注文を頂いて送っています。もう10数年前からのお客さんです」という。
 そんなに長い間、ひいきにして頂き、ありがたいことだ。一度、上京の折、お礼を申し上げるとともに、どんな使い方をされているのか、どなたの紹介で“宮島醤油”を・・・等々をお尋ねしたい気持ちに駆られていた。
 今年に入り、3月の中旬、東京での用件を早めに切りあげ、かつての日本海軍の軍港 横須賀へ足を伸ばす。
 あらかじめ、インターネットの横須賀観光案内で所在地を確かめ、うなぎ専門の店“千年屋(ちとせや)”さんを訪ねる。
 暖簾(のれん)をくぐると、左にカウンターと調理場、右に、座敷風の客席。その一席に案内される。ちょっと気難しそうな御主人と、明るくテキパキとお客さんに接しておられる奥様と、若い息子さんらしい3人でお仕事のようである。
 
 来意は告げず、とりあえず、千年屋 御推奨の“うな重”を注文する。一口食べると程よい肉厚に蒸しが入った蒲焼に、たれの味・香りが調和したうなぎの醍醐味が、ふんわりと口中に拡がる。その美味に一日の旅疲れを癒し、少し休ませてもらった。
 代金を支払い、お礼を申し上げた後、名刺を差し出し、「宮島醤油の会長のミヤジマです。永い間、御贔屓を頂きありがとうございます。」と挨拶をする。
 御主人と奥様、「まぁー、ミヤジマさん 遠いところを・・・」とびっくり、年来の知己のように、話がはずむ。
 「地元のお客さんではなさそうだし、どなただろうと思っていました。宮島さんとは・・・」
 千年屋は、もともとは魚屋さん、鮮魚だけでなく、簡単な料理をしますとお客さんに喜ばれ、うなぎも料理していました。
 千年屋(ちとせや)
神奈川県横須賀市
上町2−46
電話:046−822−4459
京急本線横須賀中央駅より徒歩10分
横浜横須賀道路横須賀ICより車で15分
休業日:火曜日
 扱いにくい“うなぎ”をどうかしておいしくしようといろいろ研究していたところ、宮島さんのお醤油に出会い、漸く会心の“たれ”を完成することができました。
 うなぎは四万十川のうなぎ、醤油をベースとしたたれ、それに備長炭の強烈な炭火、この火でたれを焼き尽くすことにより、千年屋のうなぎは完成します。
 
 千年屋のうなぎの誕生から、今日までの苦心談をお聞きしながら、最後に、「どなたのご紹介で宮島をお使いですか?」とお尋ねすると、
「唐津出身の坂本さんのお宅に食事に呼ばれた時の醤油に惹かれ、使い始めました。坂本さんをお呼びしましょう。親しくおつきあいしていますので、すぐ来て頂けますよ」とのこと。
 数分後、その坂本さん御夫婦にお目にかかる。
 「私たち、坂本耕策の長男の坂本俊介です。」と自己紹介される。
 あぁ、坂本さん。今度は、その奇遇に私の方がびっくり。
 坂本さんのお宅は、宮島醤油の本社工場からは目と鼻の先。古くは、その街中で銭湯を営まれていたが、坂本さんの御父上は教職の途に進まれた謹厳実直な教育家。叔母さん、叔父さんは、私の姉、私と同級生で、竹馬の友。さらに、私の長男と坂本さんの弟さんとは無二の親友、PTAを通じて坂本さんのお母さんと私の妻は昵懇(じっこん:間柄が親しいこと)の仲・・・と、明眸皓歯(めいぼうこうし:すずしい目と白い歯。美人の形容)な奥さんを交えて話がはずむ。
 故郷、唐津を離れても、望郷の念抑え難く、今なお、“唐津くんち”には、必ず帰省される程の山笠(やま)キチ(やまきち/山笠が大好きな人の意)と自称、名刺も山笠の写真が入っている程の熱心さ。
 坂本さんは船舶関係のお仕事で、長崎から広島の生口島を経て、更に横須賀で事業を始められ、千年屋さんとお知り合いになり、宮島醤油との出会いができたということになる。
 九州は唐津の醤油が、関東は横須賀のうなぎのたれとなる。その謎が解かれた中には、人と人とのつながりが秘められていた。
 宮島の商品のひとつひとつが、このような人たちに守られながら、一世紀を越える生命を維持してきているのだと、感謝の念に浸りながら、坂本さんご夫妻と、春の雨もあがった横須賀の街中でお別れする。すばらしい、横須賀の春宵であった。
 この原稿をしたためている本社事務所の中庭には、坂本さんの御父上から頂いた、紅白の“さつき”二鉢が咲き誇っている。横須賀での坂本さんとの春の夕、千年屋さんのうなぎに思いを馳せながら、“さつき”を愛でている。