私の似顔絵
(辛亥新春、昭和58年に
描いてもらいました。)
会長コラムへようこそ。

 おめでとうございます。今年は戌(いぬ)年ですね。
 犬ほど 私たちとともに生きてきた動物はいないでしょう。そして、いろいろのことを教えてくれています。
 数年前、JRで博多から唐津に向かっていた。
 博多の都心を過ぎ郊外の駅で乗客もまばらになった頃、盲導犬に伴われた障害者の方が乗ってこられた。
 春の陽光に盲導犬の肌は黒く輝く。静かに座席に腰を降ろされた障害者の方の足許に盲導犬も座った。乗客の皆さんも温かい視線を投げかけられている雰囲気。私もいつしか盲導犬を見つめていた。10分、20分と駅を過ぎた。その間、犬は微動だにせず、正面を見据えて傅(かしず)いていること半時間余。目的の駅に着いたのだろう。人と犬どちらが誘うともなく、そっと立ち上がり、何事もなかったように静かに下車された。
 いつものように電車は徐(おもむろ)に発車する。
 私の胸には今もなお、心暖まる感動が残っている。
 十二支の11番目は戌(ジュツ)、動物は犬が当てられている。
 犬は、古くから人と共生していた。日本でも縄文前期(BC7000年)の頃の遺跡から、明らかに埋葬した状態の日本犬が出土している。恐らく、野生の犬が人の喰べ残した食物を求めて人の周辺を徘徊し、次第に飼い慣らされ、家畜としての犬になったのだろう。
 犬は、四肢の長い体形から走力に富み、かつ耐久力に富む。さらに人間の数万倍の嗅覚をもち、飼主に対しては忠順、敵に対しては勇敢に立ち向かう。こうした素晴らしい能力・習性を利用して、番犬・猟犬・救助犬・盲導犬として私たちの役に立ってきた。
 まずは、犬、狗と字の生い立ちから・・・
 イヌの漢字として、犬、狗、戌がある。
 は、いぬの形を象形して「犬」となる。
 
 は、音は「ク」、=犬、句は音をとったものという。狗は、小さい犬の意もあるが、犬と狗は同じと考えてもよいとある。
 犬は偏となって、いろいろの動物となって500字近い字ができあがっている。それほど人間にとって身近な動物だったことの証明になる。獣という字にも犬が入っているくらいだから・・・。
 もうひとつ「戌(ジュツ)」もイヌと読む。
 は、犬とは全く関係ない。戌の本来の字は(エツ)=儀式のときに使う まさかり、斧の意味。この戉の字が十二支の11番目に使われてから、戌となり、これにイヌという動物をあてはめたので、イヌと読むようになったもの。だから、十二支のときだけ戌(イヌ)と読む。
 因みに、戌と似た字に戊、戍がある。
 (ボ・ボウ)、甲乙丙丁戊・・・と十干の5番目、通信簿の甲乙丙丁まではおなじみだが、その次が戊である。十干に戊、十二支に戌があるから戊(つちのえ)戌(いぬ)の年が60年に1回まわってくる。昭和33年(1958)が戊戌だったから、次は今から12年後に戊戌になる。
 (ジュ)、は人と戈(ほこ)=武器をもって人を守る意味で、訓は「まもる」。
 戌、戉、戊、戍 微妙に異なる字です。
 ちょっと、頭の体操をしてみました。
 若い娘さんに、「ココホレ、ワンワン」って解る?と尋ねたら、即座に「ハナサカヂイさんでしょう」という答えが返ってきた。それほど有名である。
 昔々あるところに、爺と婆がいた。ある日 爺は山へ柴刈に、婆は川へ洗濯に・・・そこで桃が流れてきた。その桃を持ち帰り、臼の中に入れておいた。爺が帰って来て臼を見ると、可愛い子犬がいた・・・。
 それから、「ココホレ、ワンワン」掘ったら、大判・小判がザクザク・・・最後は枯木に灰を撒くと、見事な桜の花が咲く・・・。
 御存知、花咲爺のお話、隣の爺系と呼ばれる一連の童話である。
 隣りあって住む、善良な爺婆と、強欲な爺婆を対比させながら話が進む。瘤取爺、舌切雀、等々である。
 花咲爺に登場する子犬は、大切に育ててくれた善良な爺婆に財宝を恵む。ここでは、犬は善良なる人間を見分ける貴重な存在である。
 こんな大切な犬なのに、あまりにも親しいためか、「犬猿の仲」「夫婦喧嘩は犬も喰わぬ」「負け犬の遠吠え」とか失礼なことを言っている。
 しかし一方では私たちにいろいろなことを教えてくれる。
 お正月にはタコあげて、コマを廻して遊びましょう・・・の時代、室内ではスゴロク、カルタで正月を楽しんだ。
 いろはカルタの冒頭、イロハのイが「犬も歩けば棒にあたる」なのだから、多くの人に知られる諺となった。
 さてその意味は?と考えると、漠然とする。
 犬も小屋にひっ込んで、ドッグフードばかり食べているとストレスはたまり、成人(犬)病になる。何はともあれ、歩け歩け!そうすれば意外な幸運に出会うかも。
 もうひとつの解釈は、犬もじっとしておけばいいのに、動いたばっかりに棒にあたってケガするのだよ という。
 いやはや、全く相反した解釈となる諺も珍しい。
 皆さん、お屠蘇を召しながら、考えてみたらどうですか。現今の厳しい世相にあっては・・・どっちでしょう。
 参考文献
 動物故事物語 / 實吉達郎 著(河出書房新社)
 十二支物語 / 諸橋轍次 著(大修館書房)
 十二支の民俗誌 / 佐藤健一郎、田村善次郎 共著(八坂書房)