公開講演会「健康をつくる発酵食品と機能性食品」が、2002年10月19日(土)佐賀大学農学部 大講義室で行われました。その様子をお伝えします。
(1)社長挨拶
(2)「発酵食品の健康機能性」 東京農業大学教授 小泉武夫先生
(3)「The Past and Present of Traditional Fermented Foods in Korea」
 (韓国の伝統的発酵食品の過去と現在) 大韓民国木浦大学校教授 鄭舜澤先生
(4)「食品成分の新しい健康機能」 東北大学大学院教授 宮澤陽夫先生
(5)「食品の機能性:現状・展望そして問題点」 熊本県立大学学長 菅野道廣先生
    
公開講演会にあたって
2002年10月19日

宮島醤油株式会社 代表取締役社長

宮島傳二郎
 21世紀においては、美しく住みよい自然環境を守ることと、人々がより健康で文化的な生活を送ることが、これまでに増して大切な課題となっています。私たち食品メーカーも、美味しくて便利な食品をお届けするだけでなく、皆様の健康により積極的に貢献する食品を開発すること、そしてそれを環境にやさしいやり方で生産し、提供することが大切になっています。
 こうした課題を実現するためには、消費者の皆様の信頼に支えられながら、科学者、料理研究家、食品製造会社、流通会社など、多くの人々による共同作業が必要です。このたび、佐賀大学農学部の先生方のご協力によって、発酵食品と機能性食品に関する公開講演会が開かれることになりました。そして、この分野を文字通りリードする先生方がご講演を引き受けてくださいました。秋の午後、大学のキャンパスにおいて学び、語り合う、楽しいひとときをどうぞお過ごしください。
 小島孝之学部長、オーガナイザーの加藤富民雄教授、柳田晃良教授はじめ、この会を主催していただきました佐賀大学農学部の先生方に改めて感謝を申し上げます。
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発酵食品の健康機能性

小泉教授

東京農業大学教授 小泉武夫

 人間は有史以来、貪欲なまでにあらゆるものを食し、美味な食べものや体にとって大切な食べものを生み出してきた。その背景には驚くべき高度な人間の知恵と豊かな発想があったことは、目にも見ることのできない微細な生きものを巧みに使って、「発酵食品」を創造したことでも解る。
 その「発酵食品」はこれまで、保存が効き、そして特有の風味があることで賞賛されてきたのだけれども、講演では、この神秘な食べものが驚くべき保健的機能性を有していることにも着目し、それに就いても視点を合わせて述べるものである。とかくこれまで、発酵食品は「体にとって素晴らしい食べものらしい」という体験的な考えが漠然と語られていたにすぎなかった。そこで本講演では、例えばヨーグルトには整腸作用、癌や高血圧の予防、老化の制御、食酢には糖尿病や肥満の防止、抗潰瘍、血中コレステロールの低下などの効能、納豆には血管内コレステロールの排除、血栓溶解、脳卒中や心筋梗塞の予防、味噌には胃癌、動脈硬化性心臓疾患、胃や十二指腸潰瘍の予防といったように、ひとつひとつの発酵食品に就いて、最近の研究成果をふまえてその保健的機能性を解説するものである。
 とにもかくにも、発酵食品は誠にもって神秘な食べものであり、人知の結晶というべき食べものであり、そして二十一世紀に突入する今、最も注目されている食べものなのである。発酵食品を総論的に表現すれば「食は発酵に在り」となり、各論的に述べれば、「美味は発酵に潜み、そして健康や老化の防止は発酵食品に宿る」ということになろう。
 正に「発酵食品礼讃」である。
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韓国における伝統的発酵食品の過去と現在
鄭教授

Soon Teck Jung
韓国 木浦国立大学校 生物工学及び生物資源学科 教授
Seong-Gook Kang
韓国 木浦国立大学校 食品工業技術研究センター 研究教授

 人間の知恵と生活技術によって、多くの発酵食品が生み出されてきた。伝統的な発酵食品は、微生物によって自然に分解された穀物、野菜、乳、肉、魚、その他の中から選び出されてきた。特に、長い歴史を持つ国の人々は発酵食品を見出す機会に恵まれており、彼らは発酵食品を広く用いてきた。発酵食品は食物の貯蔵期間を延ばすだけでなく、微生物の力で食品の機能性を増し、消化速度を速めることもできた。更に、食材を発酵させることで、特定の地域の人々に好まれる独特の香りが生まれる。これは、地理的、及び気候的条件からくる嗜好である。
 韓国の伝統的な基本食は、炊いた米、テンジャン汁(舐醤汁=味噌汁)、カンジャン(塩醤=醤油)、およびキムチ(沈菜)だが、この中で、伝統的発酵食品は重要な役割を演じてきた。韓国の発酵食品は、使われる原料によって4つのグループに分けられる。それらは、大豆発酵食品、穀類発酵食品、野菜発酵食品、及び海産物発酵食品である。
 代表的な大豆発酵食品はメジュ(麹、コウジ)と塩から作られるもので、カンジャン(塩醤=醤油)、テンジャン(舐醤=味噌)、コチュジャン(辛醤=唐辛子味噌)、ジュープジャン(汁醤)、ダムスージャン(淡水醤)、およびチョングッジャン(清麹醤=納豆味噌)がある。米および他の穀類から作られる発酵食品はすべて、ヌルク(酵母を含む発酵液)のせいでアルコール性となっている。
 大豆発酵食品に関する最初の記録は、西暦683年の古い文献に見られる。「増補 山林経済(Jeungbo-Sanlim-Kyungje)」(Yu Jeung-Im著、1766年)には、45種の大豆発酵食品が記載されている。「林園経済誌(Imwon Keongjaeji)」(Seo Yu-Geo著、1827年)には、韓国の171種の米酒及び蒸留酒を含む300種以上の伝統的な酒類が記載されている。デンプンとタンパク質をアルコールとアミノ酸に転換して酒類や大豆食品を作るために、韓国人は独特のメジュ・ヌルク(麹・酵母)技術を開発してきた。
 ジョッカル(塩辛)あるいはジョッ(醢)とは、海産物に塩を加えて作られる発酵食品全般を指す。朝鮮半島は海岸線が長いので、エビ、カタクチイワシ、カニ、子ハマグリ、カキ、イカ、および小魚など、多彩な海産資源に恵まれており、これらは海産物発酵食品の貴重な原料となっている。海産物発酵食品は、シッケ(海産物に穀類と唐辛子を加えた発酵食品)、ジョッカル味噌、ジョッ、およびジョッ汁(醢汁=塩辛汁)に分類することができる。これらは副食として食べたり、キムチ作りの重要成分としても使われる。キムチ作りにおいてジョッカルを実際にどう使うかは、「増補 山林経済(Jeungbo-Sanlim-Kyungje)」に記載されている。
 キムチ(沈菜)は韓国において長い伝統をもつ独特の野菜発酵食品である。キムチは白菜、大根、ネギ、キュウリなどの野菜に、赤トウガラシと塩を加えて作る。これらを貯蔵しているあいだに、乳酸菌による発酵が起こる。
 これらの伝統的な発酵食品は韓国人の食生活で長いあいだ使われてきたが、1970年代以降、西洋化された若い韓国人たちはこれらを好まなくなっている。韓国の伝統的な発酵食品の持つ生物学的機能性に関する現代的な研究は、およそ10年前に始められた。その時以来、韓国の伝統的な発酵食品の持つ価値や生理学的機能性に関する多くの報告が行われた。それらは、免疫力の増強、高血圧症と糖尿病に対する効果、突然変異抑制効果、および抗癌効果などである。伝統的発酵食品のうち、各家庭で作られるものが全需要のおよそ60%を占める。また、商品として製造される大豆発酵食品の量については、正確な統計が存在しない。
 2001年の全国食物消費調査によれば、伝統食品の商業ベースでの生産量は、メジュ(麹)が2万3,438トン、カンジャン(塩醤=醤油)が2,503トン、テンジャン(舐醤=味噌)が2万6,223トン、コチュジャン(辛醤=唐辛子味噌)が11万1,695トン、そしてチョングッジャン(清麹醤=納豆味噌)が2,630トンである。カンジャンの全生産量、つまり発酵カンジャン、アミノ酸カンジャン、およびカンジャンブレンドの全生産量に占める伝統的なカンジャン食品の割合は1.4%に過ぎない。いっぽう、伝統的なテンジャンは、販売されている全テンジャン生産量の28%を占める。
 古い文献には酒類について多くの記述があるが、伝統的な酒のうち、1950年代以降は、タックジュ(濁酒。粗漉しの米酒で、マッカリとも言う)、ヤックジュ(薬酒。ろ過した米酒)、ソジュ(焼酒=焼酎。蒸留酒)だけが製造されている。タックジュ(濁酒)はかつて韓国で最もポピュラーな酒のひとつであり、1974年には170万キロリットル生産された。しかし、ビール消費が1983年以降増加したので、タックジュの生産は年々減少し、2001年の生産量は僅か16万キロリットルにまで落ち込んだ。最近は、伝統的ヤックジュ(薬酒)と伝統的蒸留酒であるソジュ(焼酒=焼酎)の需要が急伸しており、ヤックジュ(薬酒)の全売上高は1億米ドルに達する。
 現在、約30種類のジョッカル(塩辛)が市場に出回っている。商業生産される発酵海産物の合計は、2001年には7万6,743トンになり、その販売金額は22億9百万米ドルに達した。これらの製品の大部分は、漁師町の小さな工場で作られている。キムチの商業生産量は2001年には28万8,541トンで、販売高は3億米ドルだった。
 伝統的発酵食品の生産者の多くは小規模生産者であり、彼らの生産効率は50%以下だということが問題である。伝統的発酵食品の輸出量は少ないが、年々増えている。現在、韓国の伝統的発酵食品は近代化とグローバル化を伴って進歩しつつある。

(日本語訳:宮島醤油(株)営業本部企画課)

The Past and Present of Traditional Fermented Foods in Korea

Soon Teck Jung・Seong-Gook Kang*
Professor, School of Biotechnology and Bioresources, Mokpo National University,

Muan 534-729, Korea. E-mail: stjung@mokpo.ac.kr

*Research Professor, Food Industrial Technology Research Center, Mokpo University

Summary

 Wisdoms of human and skills of life created many fermented foods. Traditional fermented foods were selected among grains, vegetables, milk, meat, fishes and the others spoiled  spontaneously by microorganisms. Specially, people with long history have many opportunities to find out fermented food, and they have used fermented food widely. Fermented foods have contributed not only to extend food storage period but also to increase digestion rate with increased functionality of fermented products and fermentation microorganisms. In addition, fermentation of food materials generates unique food flavors favored to people living only in each region by geographical and climatic conditions.

 The traditional fermented foods have played an important role in Korean dietary life in which Korean traditional basic meals consist of cooked rice, doenjang soup, kanjang and kimchi. Korean fermented foods may be classified into four groups, namely, fermented soybean products, fermented cereal products, fermented vegetable products, and fermented marine products based on raw materials used.
 The representative fermented soybean foods are kanjang (soybean sauce), doenjang (soybean paste), kochujang, jeupjang, damsujang and chunggukjang made from meju and salt. All fermented products based on rice and other grains are alcoholic nature made by nuruk.
 The first record on fermented soybean foods appeared in a historical literature of 683 A.D. Jeungbo-Sanlim-Kyungje (Re-edition of agricultural economic, Yu Jeung-Im, 1766) listed 45 fermented soybean products. More than 300 items of traditional alcoholic beverages including 171 rice wine and distilled liquor in Korea have been known as written in Imwon Keongjaeji (Book of country economic, Seo Yu-Geo, 1827).  Koreans have developed the unique meju-nuruk technology to convert starch-protein into alcohol-amino acid products for alcoholic beverages and soybean products. Jeot-kal (or jeot) is a name given to all fermented products of marine origin prepared by adding salt. The long coastal line of the Korean peninsula provides a variety of marine production such as shrimp, anchovy, crab, baby clam, oyster, squid, and small fishes that are the important raw materials for fermented marine products. Fermented marine products can be classified into sikhae, jeot-kal paste, jeot and liquid jeot. It had been eaten as a side-dish and is used as an essential ingredient for kimchi preparation.  The practice of using jeot-kal in kimchi was recorded in Jeungbo-Sanlim-Kyungje. Kimchi is an unique fermented vegetable product with long tradition in Korea. Kimchi is made from chinese cabbage, radish, welsh onion, cucumber, and other vegetables with red pepper and salt.  It is fermented by lactic acid bacteria during the storage period.

 These traditional fermented foods had been used in Korean diet for a long time, but it was not favored by westernized young people in Korea since 1970s. Modern studies on biological functionality of Korean traditional fermented foods were begun about a decade ago. Since then, there have been a lot of reports about the values and physiological functionality of Korean fermented foods such as immune reinforcement, activities against hypertension and diabetes, antimicrobial activity, antimutagenic and anticancer effects.The amount of traditional fermented food products prepared by individual household is approximately up to 60% of it's total demand, and there is no accurate statistics on the amount of fermented soybean products manufactured commercially.

 According to the 2001 national food consumption survey in Korea, amounts of commercial production for traditional meju, kanjang, doenjang, kochujang, and chunggukjang were 23,438 ton, 2503 ton, 26,223 ton, 111,695 ton and 2,630 ton, respectively. Traditional fermented kanjang product portion of total kanjang consisting of brewing kanjang, amino acid kanjang, and blended kanjang was only 1.4%, but traditional doenjang was 28% of total commercial doenjang production. There were records on many alcoholic beverages in an old literature, but only takju (makkulli, rice wine), yakju (filtered rice wine ) and soju ( distilled liquor ) among the traditional wines have been manufactured since 1950s.  Takju was one of the most popular alcoholic beverages in Korea, and it was produced 1,700,000 kL in 1974. However production of takju has  decreased continuously as beer consumption has increased after 1983, and it was manufactured only 160,000 kL in 2001.  Recently, demand of traditional yakju and traditional distilled soju is rapidly increasing, and the total sale amount of yakju reaches 100 million US dollars.

 About 30 kinds of jeot-kal are found in the market presently.  Total commercial production of fermented marine products amounted to 76,743 tons in 2001, and it's sale reached 220.9 million US dollars.  Majority of such products were produced by small-scale manufactures in fishery towns. Commercial production rate of kimchi was 288,541 ton in 2001, sale of which  was 300 million US dollars.

 It is problem that most traditional fermentation food producers are small-scale manufacturers and their operated yield is less than 50%.  Export amount of traditional fermented foods is a little ,but growth in export increases continuously year-on-year.  Now, Korean traditional fermented food is progressing with modernization and globalization.    

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食品成分の新しい健康機能
宮澤教授      東北大学大学院教授 宮澤陽夫

 近年、食品成分の新しい健康機能が明らかにされつつあります。高齢社会にある今日、生活習慣病の予防とともに生体老化の予防もおおいに注目されるところです。予防は薬より食べ物でというのが多くの人達の希望でもあります。天ぷら油の劣化と同様に、生活習慣病や細胞の老化に共通の要因のひとつは酸素障害(酸化ストレス)です。動脈硬化、糖尿病、肥満、肝炎、痴呆症ではからだの中に特徴的に過酸化脂質が溜まりますが、ビタミンE、ビタミンC、カロテン、カテキンなどがこれを防ぐことが示されています。一方、癌組織の増殖が米糠に含まれているトコトリエノール(不飽和ビタミンE)によって防止できることが最近明らかにされました。また、共役脂肪酸の機能性も注目されています。このように知らず知らずのうちに日常摂取している食べ物の成分が病気やストレス・老化の予防におおいに役立っていると言えましょう。多様かつバランスのとれた食事と適度の運動が健康長寿の秘訣と思われます。

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食品の機能性:現状・展望そして問題点
菅野学長 熊本県立大学学長 菅野道廣

 ヒポクラテスの時代にまで遡る「食と健康」の問題が、いま日本では煮えたぎっている。政治的な背景は別にしても、食事による健康維持は極めて実践的、かつ経済的な対応であることは疑いない。

 食品成分の体調調節機能に関する研究は、わが国にその端を発し確立され、「機能性食品」という用語を生み、世界に先駆けての国家認定の「特定保健用食品」(特保)の創製に至っている。現在、整腸作用、コレステロール低下、血圧低下、齲歯防止、糖尿病予防などさまざまな領域に分類される300品目にも及ぶ食品が認可されて、さらに多くの企業が新製品を企画している。
 はたして、「食品にどこまで期待できるのか」、「特保の効果には普遍性はあるのか」。特保としての認可に先立って、まず実験動物での効果証明がなされるが、結果はそのままヒトへは適用できない。一方、ヒトの実験は容易でなく明確な結果が得られ難い。そのため、誰にでも有効なのかどうかが問題となる。同時に摂取する食事や個人差の影響は避けて通れず、問題は簡単ではない。
 一例をあげると、現在、コレステロール低下効果がある成分としては、大豆タンパク質を始めとする数種の特保が認可されているが、これらはすべて、その作用点は腸管でのコレステロール(あるいは胆汁酸)の吸収阻害にある。日本人のコレステロール恐怖症にまさにぴったりの食品であるが、事実は必ずしもそうではない。コレステロール摂取を拒否する科学的な根拠は希薄で、すべての人で拒否しなければならない必要性はない。したがって、このような成分の効用には、それなりの限界があるように思われるし、コレステロール以外の脂溶性成分(トコフェロール、ビタミンA、カロテンなど)の吸収への干渉を考慮しておかなければならないが、この点は軽視されている。
 動物実験では著効が見られてもヒトでは期待しにくい例もあり、ヒトは「応答しにくい動物」のようでもある。つまるところ、比較的多量かつ長期間の摂取が求められ、安全性の問題を生む。このような場合の対策の一つとして、食品成分間の相乗効果が期待される。食品に含まれる機能性成分は、多くの場合、その効用は強くなく、かなり長期間の継続摂取が求められ、実践の面では弱点となる。有効成分を抽出、濃縮して用いることが汎用されるのもこのためであり、食品以外の形態でも特保として認可される。

 機能性食品の開発には、ヒトの不均一性を含め、幅広い視野からの評価が不可欠である。しかし、その健康効果は高く評価すべきであり、いかに効果を発揮させるかが問題となる。

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講演会終了後、先生方を交えてミキサーが行われました。
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