私の似顔絵
(辛亥新春、昭和58年に
描いてもらいました。)
会長コラムへようこそ。

 バブル経済がはじけて10数年。政府はいろいろの手をうっているが、なかなか思うような結果が得られない。何とも、もどかしい限りだ。
 そのあたりの因果関係を思いつくままに・・・
エルニーニョ現象で、豆腐・味噌の価格が騰る?
 フジモリ元大統領の去就が日本で大きな関心を集めているペルー。そのペルー沖の太平洋の海面水温が、10年に1度ぐらい突然異常に上昇する。この現象の原因は全く分からず、その年に限って不漁、集中豪雨による洪水となると信じられている。
 この現象が起こるや否や、アンチョビ(かたくち鰯)が不漁になる。かたくち鰯は、肥料・飼料に使われているので、これ等にかわって大豆・トウモロコシが肥料・飼料に向けられる。従って、大豆は品不足になり価格が騰る。大豆をアメリカからの輸入に頼っている日本の味噌・醤油業は、価格を上げざるを得ない という因果関係、理屈である。
 幸いに、1980年頃から、南米のブラジル、アルゼンチンでも大豆を生産するようになり、現在では、その生産高はアメリカと肩を並べるようになったので、大豆の価格は比較的安定しているから御安心の程を。それまでは、ペルーの気候、海水温度に一喜一憂していたものだ。
←直近の強いエルニーニョが観測された1997年12月の海面温度。
風が吹けば、桶屋が儲かる。
 エルニーニョから味噌の値段までの因果関係を考えていたら、「風が吹けば・・・」のコトワザが浮かんできた。出典は「浮世間学者気質」とのこと。
 「今日の大風で土ほこりが立って
 ほこりが人の眼の中に入れば
 眼を患う人が増える。
 すると眼が見えない人が多くなる。
 そこで、三味線が売れる。
 そうすると、猫の皮がたくさんいるので
 世の中の猫が減る。
 すると、鼠が暴れ出すよって
 おのずから箱(桶)の類をかじりおる。
 そこで、箱(桶)屋をしたら儲かりそうじゃ、
 と思案はしても元手がなくては埒はあかず」
と庶民が嘆くことになる。
産業連関表
 風吹けば・・・の因果関係から、産業連関表いわゆるレオンチェフ表を連想する。
 自動車を100増産すると、鉄50、ゴム20が増える。鉄50の増産は、労働力の増を引き起こし賃金が増える。労働者は家を建てる。
 このような産業間の投入量、産出量を定量的に分析した循環図が産業連関表で、第2次大戦頃から今日まで、経済政策の立案に際して参考にされている。
ワシリー・レオンチェフ
(1906-1999)
ロシア生まれの経済学者。1973年にノーベル経済学賞を受賞。
 今までは、不況になると公共投資を増やす、それに関連していろいろの業種も活動が活溌になってきた。しかしバブル以降は公共投資の増、所得税の減税等々、その経済効果が算出されたのだろうか、現在の日本経済は、どうも計算通りにはいかぬ、どうも構造的に欠陥がある、と“改革”が叫ばれることになる。
長い論理は危うい
 経済政策はどうも、論理通りにはいかない。
 その理由を、ベストセラー「国家の品格」で、藤原正彦先生が数学者らしく次のように説明される。



 「風吹けば・・・桶屋が儲かる。とは、ちょっとした論理です。しかし、数学的に考えると、どうなるでしょう。
 風が吹けば埃が立つのは90%正しい。
 埃が目に入って患う人は10%ぐらい。
 その中で目が見えなくなるのは0.1%。
 さらに三味線弾きになる人も0.1%。
 ・・・各ステップを全部かけあわせると、0.9×0.1×0.001×0.001・・・おそらく桶屋が儲かるのは1兆分の以下になるでしょう。要するに桶屋が儲かることにならない。
 このように一般の世の中では、長い論理は非常に危険です」
 なるほど、と納得。
人間の行動の行方は?
 さて人間が迷ったとき、どんな基準で行動するのだろう。ひとつひとつ論理を組み立てて動くはずもない。そのときどきの心理状態も左右する。それぞれの欲望にも濃淡がある。度し難いは世の常であろうが、とくに人間の消費行動は、より複雑さを増す。これらを解明し、「現象記述・予測の理論」を確立しようと物理学・生物学・医学・心理学・コンピューター科学・経済学と広範囲の学際的な「複雑系の経済学」が叫ばれて10年だが、勿論、とてもすぐには解明される問題でもない。
 しかし、すべての現象は、それだけでは存在しない。いろいろの要素原因が重なって起こっているはずである。
 因縁(直接的な原因、間接的な要件)があり、それが縁起(因と縁がからみあい)となり、因果(結果)が生じる。さらにその因果が因縁となり、生々流転 ― そこから宗教が始まる。
 何か、抹香くさくなりました。お許しを。