私の似顔絵
(辛亥新春、昭和58年に
描いてもらいました。)
  会長コラムへようこそ。

 齢、80歳。
 毎日、手を洗い、拭きあげ、何げなく指を広げてじっと眺める。80歳になるまで、両手10本の指には、お箸をもつ、お茶碗をもつ、ペンを握る等々、お世話になったなあと愛しむ。
 
手、指
私の手、指
 
 私は現在、身長168cm、体重47kgの痩身である。この体格に比べて掌(てのひら)は広く、指も長い。これも遺伝なのだろうか。それとも15~16歳の頃からバレーボールに親しんでいたから、大きくなり柔軟に動くのだろうかとも考えてみる。とくに薬指が長く感じる。中指とほとんど同じくらいである。
←薬指が少し長いようです。

こちらは、私の右手
私の手のイラスト(左手)
 バレーボールという球技は、基礎的な、いわゆるオーバーハンドパスが最も難しい。激しく、強く、速く飛んでくるスパイクの球を、10本の指と手首、腕、肩、腰で受け止め、柔らかくフンワリとした球を返すには、10本の指の動きは微妙である。このため、初心者の頃は突き指をしたり、爪が裂けたり、ひとりで苦しんでいたものだ。
 10本の指でガッチリと受け止めるのだが、実際には接触する瞬間は、親指と薬指+小指の2点が最も大切な役目を果たしているようだ。
薬指
 指は勿論、左右5本ずつ、親、人差、中、薬、小指の5本。この中で、薬指は特別な役目がなく、どことなく意味深長だなあ、と思っていた。
 ところが、ひと月ほど前に、
 「薬指が長いと証券トレーダーに向いている」と題するコラムが眼についた。
(「競争と公平感」 大竹文雄著 中公新書)
 「ケンブリッジ大学の神経科学と経済学の研究によると、成功している証券トレーダーは、薬指と人差し指の長さの比が大きいことが明らかになった。その理由は、テストステロンという男性ホルモンの量が多いからという。妊娠3ヶ月頃までのこのホルモンの曝露量から指の長さの比率が決まるという。このホルモンの量が、瞬間的な判断力、筋肉量に影響する。その他に、サッカー、ラグビーの選手、オーケストラの演奏者にも薬指が長い人が多い」という。
 著者、大竹文雄氏は、この因果関係をより厳格に比較するため、個人競技である大相撲の力士に眼をつけ、十両から横綱まで約100枚の手形を調査されたら横綱、大関の上位力士の方が明らかに薬指が長い、とのこと。
 今、問題の渦中にある相撲だが、裸一貫、褌一本の力士がぶつかる。一瞬でも早く、相手の褌を掴み、しっかり握りしめることは、非常に有利になる。このとき、親指と長い薬指、小指でしっかり握れば力が入ってくるから強いとも言えるだろう。
 
 この本を読んで数日後、今度は動物行動学の竹内久美子氏の「女は男の指を見る」(新潮新書)を購入する。この中で、
 女性が気になる男性のパーツの第1位は手(指を含む)である。女性は何故、男の指に惹かれるのか。
 その理由を説明するのに胚発生のとき重要な役割を果たす遺伝子HOXから説明されている。
 素人には少々難解であるが、要するに「胴体の末端である生殖器、泌尿器と、腕や脚の末端である指は共通のHOX遺伝子によって作られているから」とのこと。
 だから、女性は、通常、男の人と対面するとき、露出している顔と手を見るが、顔をジロジロ見ることはできないので、自然に手指に眼がいく。それから無意識のうちに男全体を感じとるのだろう、と分析されている。
 
 ふたつの本から、薬指と男性ホルモンの量、薬指が長いとスポーツに強い等・・・との因果関係は、「あくまで平均的には関係があるということで、実際的には個人差が大きいことに注意してください」と、著者大竹さんは念を押しておられる。
薬指の不思議
 薬指は、他の4本とは違った雰囲気があるようだ。
 それは、まず、他の指は曲げたり、動かしたりすることができるが、薬指は単独ではできない。どうしても中指や小指が動く。(ちょっと試してみてください。)これは両隣の中、小指の腱がつながっているからである。そんなこともあってか薬指には呼び名が非常に多い。
 
 薬指、薬師(くすし)指、名無し指、紅つけ指、環指、お姉さん指等。
 この中で“名無し指”というネーミングが興味をそそる。
 中国が名無し指と称したのをはじめとして、フィンランド、ブルガリヤ等も同じように呼ばれているところからみて、名無し指は万国共通のようだ。
 名無し――何か魅力を秘めているからだろう。
 
 ご存知のように、婚約、結婚指輪は、薬指にはめる。
 これは古くはローマ時代から、薬指からの特別な静脈が直接心臓に通じているからという。
 薬指、薬師(くすし)指もまた、このやさしい指で塗ってもらったり、水に溶かしてもらえば、病気を治してもらえるような感じがある。
 
 薬指の語源のひとつに薬師如来像の印を結ぶ右手の第4指から薬指といわれたとの説がある。
 薬師如来の仏像の前にひざまづく。ふと頭(こうべ)をあげると、如来の御手が眼に止まる。何気ない、その薬指は美しくやさしい。
 またいつの日か、唐招提寺の薬師如来像に額づくことを心待ちしている。
参考文献
競争と公平感 大竹文雄 著 中公新書 2010.3.25発刊
女は男の指を見る 竹内久美子 著 新潮新書 2010.4.20発刊