走らんか副社長
【北国街道 長野行】

102区(連載117回) 坂城~屋代

古墳は古代の有力者の墓で、その権力が大きければ大きいほど墳丘も巨大になったと考えられている。残された者たちが故人のために大きな墓をつくって盛大に葬ったのだろうし、あるいは有力者が生前に、自分を誇示するために大きな墳丘をつくることを命じた場合もあったかもしれない。

かつて信濃の国でその地域の支配者(仮に森将軍としよう)が亡くなった時には、こんな会話がされたのではないだろうか

「我らの森将軍の墓は、誰の墓にも負けないでっかいものにせにゃならん」

「うむ、これまでの倍くらいの大きさにして弔おうじゃないか」

「倍じゃ足りんのじゃおまへんか。隣の国からも見えるくらい大っきいお墓にせなあきまへん」

「よっしゃ、みんなでがんばっぺ」

「皆さんちょっと待ってください。倍の大きさと簡単に言いますけどね、長さを2倍にすると面積は4倍に、必要な土の量は8倍になることをご存じですか」

「そげなややこしかことは知らん。おれたちが算数苦手なことを馬鹿にしくさって」

「いやいや馬鹿にしてはいませんが、巨大な墓をつくるとなると、ある程度の土木知識は理解できないといけません。もちろんたいへんな数の労働者と、彼らを指揮する現場監督も必要です」

「そったら堅苦しいことより、おれたちに今必要なのは気持ちじゃ。森将軍のためにでっかい墓を気合でつくるんだ。ぶっ倒れるまで働いてつくって見せる!」

「あのぉ、最近は労働基準監督署の指導が厳しくなっていますので、ぶっ倒れるまでとかはありえません。労働時間と休日をきちんと設定して労務管理をしなければなりません」

「まったくもぉ、さっきからなにぐちゃぐちゃぬかしとんねん」

「どうか落ち着いてください。そんな乱暴な言葉はパワーハラスメントにあたりますから、気を付けてください」

「だったらどないすりゃええっちゅうねん」

「はい、では私が考えたプランを説明しますね。あそこに山がありますが、あの山のてっぺんを古墳の形に成形したらどうでしょうか。その工事はそれほど難しくないと思います。ちょっと想像してみて下さい。あの山の頂上が古墳の形をしていたら、山全体が巨大な古墳のように見えませんか。いやきっとそう見えるはずです」

「おおっ、なるほどそうかもしれん。しかしそりゃあちょっとばかし、いかさまじゃねぇか」

「いかさまとは言いすぎですよ。楽をして巨大な墓をつくる安易な手法、いや画期的なアイデア、諸問題を一気に解決するブレイクスルーだと言っていただきたいですね」

「ううむ。よぉわからんが、楽をしてってとこが気に入った。よっしゃそれでいこう」

というようなやりとりを経て完成したと私が勝手に想像するのが、千曲市にある森将軍塚古墳だ。山の頂上を古墳にしたため、ふもとからの標高差約130mの山が世界最大級の(ように見える)巨大な古墳(のような山)になっている。

頂上の前方後円墳を縦位置から見たところ

墳丘の頂上から下を見る

頂上にある本当の古墳も全長100mほどで十分に大きいのだが、実際に登ってみて感じるのは、よくぞこんなうまいことを考えたな、ということ。当時の姿を模して石積みが復元された古墳から、眼下に広がる平地を眺めていると、本当に山全体が墳丘なのではないかと錯覚してしまう。

周囲を一望に見渡せるこの場所は山城を築くのに最適だと思うのだが、そうせずにお墓をつくったのは、当時の信濃の人々が好戦的ではなく穏やかだったということだろう。そして、先ほど古代人の会話で、山頂を古墳の形にする工事は難しくない、と書いたのは訂正しよう。これだってたいへんな工事だ。

なお森将軍塚古墳とは、森という土地にいた偉人の墓という意味で、森将軍という人が埋葬されているわけではなく、被葬者は特定できていないそうです。

古墳に至る登山道ではこんな生物もにょろにょろと散にょろ中でした。

2021年1月

【追記】

現在(2021年1月下旬)、11の都府県に緊急事態宣言が発令されています。本稿で長野県の坂城町から、しなの鉄道屋代高校前駅に至るコースを進んだのは昨年11月のことですが、来月以降はどうなるか、どうするかわからない状況です。

今回の走らんかスポット