走らんか副社長
【長野県】

112区(連載149回) 牟礼~黒姫

今回は北国街道を北へ向かう旅、長野県上水内(かみみのち)郡飯綱町の、しなの鉄道牟礼駅から同郡信濃町黒姫駅までの10kmほどの道を行く。
牟礼駅を出発してしばらく行くと、“武州加州道中堺碑”が立っている。これは、ここが武州(武蔵国江戸)と加州(カリフォルニア州ではないよ、加賀国金沢)を結ぶ120里(約480km)の中間点だった印だそうだ。では現在の鉄道ではどうかと調べてみると、牟礼から東京までは新幹線を使って241.0kmでほぼ昔の街道と同じだが、金沢までは214.6kmと距離は少々短縮されている。私はせっかく中間点まで来たからには金沢まで行くのか、というと今のところそのつもりはなく、とりあえずは日本海を目指している。

さて、地図を事前に確認すると、本日の行程の半分ほどは街道が国道から離れており、いや正しくは、新しい国道が旧街道と離れたところにつくられたため、街道はおそらく通る人がほとんどいないであろう山道のまま残されているようだ。
 いざ行ってみると、やはり思った通りの道で、念のために持ってきた熊除けの鈴を取り出して、碓氷峠を越えた時以来久々に“ちりんちりん”と使うことになった。途中、明治天皇がお休みになった所、という碑もあるのだが、しつこい蚊に襲われ、猪やら熊やらがいつ顔を出すとも知れないので、おちおち休んではいられない。
 国道を車で飛ばせば10分もあれば行けるところを、何がおもしろくてこんな道をわざわざ通るのだ、と思われるだろうが、これが楽しいのだ。

道中、車にも人にもまったく、ほんとうにまったく出会うことなく(熊さんにも合わなかったのは幸いだが)山道を通過した。なお、これは後から知ったことなのだが、この道は2006年に“美しい日本の歩きたくなる道500選”に指定されており、道が荒れてしまわないように地元飯綱町の人によって整備されているらしい。たしかに、ほとんど利用されていないであろう道にしてはきちんとした道だった。感謝しなければ。


さて、交通量の多い国道に合流すると、本日は残暑厳しい炎天下なのだが、だんだん豪雪地帯に入ってきたらしい。道路の高架下には冬に備えて除雪車が待機している。雪国の人には当たり前の光景なのだろうが、私にとっては生まれて初めて見る大型の除雪車だ。また、これほど大型ではないものは、駅や民家の軒先に保管(駐車?)されているのを数多く見かける。


信濃町に入るが、ここは小林一茶が生まれ、そして亡くなった地だそうで、町のあちこちに句碑が立っている。最初はどんな句が彫ってあるのかを確認していたのだが、そのうちいちいち読むのも面倒になるくらいたくさんある。
 駅から伸びる道路は“一茶ストリート”で、「やせがえる 負けるな一茶 ストリート」という垂れ幕が下がっているし、マンホールは馬と雀の図柄、これは「雀の子 そこのけそこのけ お馬が通る」だな。


黒姫駅に到着する。駅の待合室には地元の農産物の売店があって、代金は駅員さんへというのも田舎の駅ならではだし、駅そばが立ち食いではなく、皆さん待合室で座って食べているのも見慣れない光景でなかなかいいものだ。

2023年9月

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