走らんか監査役
【新潟県】

126区(連載163回) 新井~高田

日本海を目指す旅もいよいよ終盤、新潟県の上越市に入る。ちょうど衆議院選挙の期間中だったので、道中ではどの党の候補者かは知らないが選挙カーが連呼する名前を聞きながら進んだし、越後高田の街中に入ってからは某党の街頭演説に出会って、ビラを渡されそうになるのをやんわりと断ったり、といった旅だった。
 現在は上越市の一部になっている高田の町は、かつては高田城の城下町として栄えていた。天守閣は建造されなかったそうだが、今も城址の周りには、ちょっと繁殖しすぎじゃないのと言いたくなるほどの蓮が全面をおおった堀がめぐらされ(蓮の花が咲く季節は見事なのだろう)、堀に面してはかっこいいという言葉は適切ではないだろうが、そんな三重の櫓(やぐら)が再建されていてなかなかのものだ。公園になっている城址には歴史博物館と美術館があって、入らせていただいた。
 このあたりは豪雪地帯であり、街中は雪が積もっても歩行者が不自由なく歩けるように、軒先が歩道部分までせり出した雁木(がんぎ)が続いている。この雁木部分は公道ではなく、個人所有の土地を各々が歩道として提供しているらしい。個人がそれぞれに作っているので、屋根のつくりが微妙に違っていたり、地面には段差があったりするのだが、なんとすばらしい公共精神だろう。「ここは私の土地なのだから、歩道をつぶして広い家を建てて何が悪い」と言い出す人が一人もいないということだ。


このコーナーは、あくまでも醤油味噌メーカーのHPの中にあることを忘れてはいないので、久しぶりに高田にある醸造元に二軒おじゃました。まずは、商店街にある杉田味噌店。この会社は江戸の文化文政時代の創業で、店頭にあるみそ樽のインパクトが強烈だが、看板に“雪の花みそ”とあって、これはみそ汁にしたときに米糀(こめこうじ)が雪のように舞うことから名づけられたそうだ。店内には味噌だけでなく、野菜の味噌漬けが並んでいて、定番のなす、きゅうりなどの他に、意外なところでエリンギがあったので、どんなものかと購入した。


もう一軒は街中から少し離れたところにある町田醤油味噌醸造場。こちらの創業は明治8年というから、先ほどの杉田さんよりは新しい。といっても当社(創業明治15年)よりも歴史があるのだ。じつは、お昼に入ったそば屋さんで“十全なすの漬けもの”という聞きなれないメニューがあって、同伴者と「何だろうね」と話しただけで注文はしなかったのだが、ここにはその十全なすのみそ漬けがあった。お店の人に聞くと、どうも新潟特産でこのあたりでは当たり前にあるなすらしい。ここでは、その十全なすのみそ漬けと、200mlの醤油を購入する。
 どれも後日おいしくいただいたのだが、十全なすはかわいいまんまるのなすで、なかなか美味でした。身近なところに老舗があって、そこでは地元の野菜を使ったものを売っていて購入することができる。そんな当たり前のことが普通にできるのがいいな、と思う。


道中でよく見かける看板に、犬のふんは飼い主が責任をもって持ち帰りましょう、というものがある。また、ここにごみを捨ててはいけません、というのもあって、心ない人にどう呼びかけたら聞いてもらえるだろうかが難しい問題だ。今回見かけた秀逸な看板はこれで、こんなかわいいのを見たら誰も捨てないよ。


 いよいよ次回は日本海を見る旅が完結するか。いや、その前に栃木県の全市町制覇の旅も終わらせなければ。

2024年11月

今回の走らんかスポット