走らんか副社長
【番外編(連載137回)】

自粛中 絶滅しないぞ海の生き物

42.マグロ(鮪)(魚類)

 前回、絶滅が危惧されている二ホンウナギについて書いたが、クロマグロ(本マグロ)も同じような状況だ。
 マグロの赤身は、すしネタとして高級な部類に入るし、中トロ、大トロとなると最高級だ。「青森県産本マグロ入荷!ただし数量に限りあり、売切れ御免!!」なんて広告を見ると、何はともあれそのすし屋に急行、という人もいるだろう。しかし残念ながら間に合わなかった場合には、「あぁ。時、すでに、おすし(遅し)」と嘆くことになる。
そんな人気のマグロも、江戸時代には“下魚”として相手にされていなかったらしい。冷蔵する手段が限られていたことを考えると、常温に長時間さらされて脂がギトギトに光っているトロは食欲をそそらなかった、というのも理解できる。
そもそもすしの歴史はというと、もともとは琵琶湖の鮒ずしに代表される発酵したすしがあり、しだいに発酵を待たない“早ずし”が登場し、アジやコハダの押しずしや巻きずしを経て、文政年間(1818~1830)に握りずしが誕生したと言われている。そして、握りずしにはマグロが合うというので、一気にマグロ人気が高まったとされる。といっても、江戸時代後期にすしネタとして好まれるようになったマグロは赤身で、脂の多いトロは、ネギといっしょに煮た鍋(ねぎま鍋)で食べることが多かったようだ。

ところで、どうも私にはマグロ全盛以前の江戸時代の味覚が残っているようで、けっしてマグロが嫌いなわけではないのだが、好んで食べるほどではない。家族ですしを食べるときには、マグロは家族に譲ってその代わりに他のネタをいただくほどだ。それは、私が幼少のころから魚は白身か青身のものを食べて育ったことが一因だと思うが、もう一つの理由は、私の考え方がひねくれていることだ。
マグロが貴重で値段が高いことは誰もが知っている。だから目の前にマグロが、しかも「天然の本マグロです」などと言われて出されると、これは高価なのだ、おいしいに違いない、おいしくなければ損だ、まずいはずがない、と自らに暗示をかけ、舌で感じた味覚が脳に到達して脳が冷静かつ的確に判断する前に、“おいしいと思い込みフィルター”を通っていると思うのだ。このフィルターがそもそも発達していない私は、「大トロなんか江戸時代には猫のエサだったんだよ」と強がっているのだけれど、「あなたは、本当においしいマグロを食べたことがないからそんなことを言うのだ」と言われれば、その通りです、と降参するしかない。


43.ハモ(鱧)(魚類)

ハモといえば夏の高級魚、しかも関西が中心の魚で関東や九州ではあまり食べない印象がある。よく知らない方には、形はウナギに似ているがウナギほど黒くなく、顔をワニのように凶悪にした魚、と説明しよう。関西では練り製品の材料としても使われているが、調理方法としては何といっても“骨切り”だ。小骨が多い胴体に“しゃっちゃっちゃっ”と細かく包丁を入れる様は見ていて気持ち良く、耳にも心地良いものだ。
 関東でも骨切りした身を湯通ししたものが売られているが、先日骨と頭だけが安価で売っていたので、買ってきた。写真を撮ったのでここに掲載したいのだが、首から切断された頭部が死屍累々と並んだ画像はあまりにも残酷で、さすがの私でもこれは少々刺激が強すぎると思ったので、毒にも薬にもならない私のイラストで我慢していただこう。

ハモの頭と骨からは、いい“だし”がとれるというので、料理に挑戦した。生臭さを消すために軽く焼いてから昆布と合わせて静かに煮ると、昆布の植物性のうまみとハモから出た動物性のうまみが相まって、絶妙のハモ煮(ハーモニー)を味わえました。

参考文献:「すし 天ぷら 蕎麦 うなぎ」飯野亮一著 ちくま学芸文庫
「幕末単身赴任 下級武士の食日記」青木直己著 ちくま文庫
「江戸 食の歳時記」松下幸子著 ちくま学芸文庫

追記:ハモの頭の写真は載せないつもりだったのですが、怖いもの見たさで興味ある方もいらっしゃるようなので、小さく載せます。

鱧

2022年9月