走らんか副社長
【中山道 西行】

73区 本郷~巣鴨

忠犬ハチ公を知っていますかと聞かれれば、多くの人はハチ公にまつわる実話のあらすじを語れるだろう。それくらい有名だ。犬としては南極観測隊のタロ・ジロと並ぶくらい有名だ。ハチもタロ・ジロも映画になっているが、ハチは、舞台をアメリカに移した映画「HACHI」も制作されているので、インターナショナルレベルで有名だ。

それくらい有名なハチ公だが、ハチは秋田犬だったこと、飼主は東京帝国大学の教授だったこと、となると認知度は少し下がるだろう。さらには、ハチの死因はフィラリア(寄生虫)に侵されたためとされていたこと、しかし最近になって保存されている臓器を検査したところ肺と心臓にガンによる病変が確認されたこと、その臓器は飼主の勤務先だった東大農学部の資料館に展示されていること、その側に博士とハチが戯れている像が建てられたこと、となると私も今回初めて知ったことだ。

一匹の犬が死んで、かわいそうで済ますのではなく、解剖、保存、再検査と、そこまでやるかと言いたくもなる冷徹な探究心に、さすが東大と感心する。そして、こんな心温まる銅像を建てた東大にもさすが、と感心する。


本郷から中山道を巣鴨へと向かう。おばあちゃんの原宿と称される商店街を歩き、有名なとげぬき地蔵は、きちんと願い事をするためには長蛇の列に並ばなければならないし、幸いにして今のところ快癒をお願いしたいほどの体の不調はないので、通常のお参りだけして通過する。

巣鴨のキャラクターは“すがもん”だそうで、商店街のあちこちで見かけるのだが、なんと郵便局まで人気に便乗したか。しかしまあ、このポストはなかなか良いではないか。


巣鴨は日本橋を出て最初の立場(たてば 休憩地点のこと)であり、お寺を中心とした門前町でもあるが、今では中高年向けの観光スポットになっている。極めつけは赤い下着の専門店で、面白半分で中に入ったのだが、赤パンツだけでよくぞこれだけの品揃えを!と驚く。(公表すべきことではないが、感動のあまり、一年遅れの還暦記念に“すがもん”ワンポイント入り赤パンツを購入した。)

商店街をはずれ、まっすぐ歩いていれば通り過ぎてしまう道路わきに、庚申信仰にまつわる庚申塚と猿田彦神社がある。街道沿いにある庚申塔についてはもう何度もとりあげてきたが、東京の都心で神社が残っていることがうれしい。狛犬が座るべき台座にはきちんと正装した狛猿が鎮座している。


都電として唯一残っている荒川線の庚申塚駅から、はじめて東京の路面電車を経験する。一両編成の電車は外観こそ近代的だが、発車の合図が“チンチン”なのが心地よい。線路に沿ってずっとバラが植えらえていて、住民の生活に溶け込んでいるのだな、と感じられる。弊社の工場がある宇都宮市では、市の中心部から工業団地がある東部までLRT(Light Rail Transit 次世代型路面電車システム)を導入するかどうかで賛否の議論が喧しいのだが、LRTなどという横文字よりも、チンチン電車と言えば良いのに、といらぬことを考える。

2017年8月

今回の走らんかスポット