走らんか副社長
【中山道 西行】

86区 岡部~本庄

JR岡部駅から中山道を小山川に向かって坂を下りた所に、百庚申というものがある。民間信仰の象徴としてつくられた庚申塔が100ほども集まっていようか。庚申塔が集中している場所はこれまでにも見てきたが、道路拡張や区画整理で行き場を失った塔を一ヵ所に集めたケースも多いようだ。しかしここはそうではなく、案内板によると万延元年(1860)から翌年にかけてまとまって建立されたと記録が残っている。この年は桜田門外の変があった年で、幕末の世情不安の中で、ちょうど庚申(かのえさる)の年にあたったこともあって人々は平穏無事を願って信仰にすがったと説明されている。なるほどと思うが、情報伝達の手段が少なかった当時、地方の庶民は江戸を中心に今何が起こっているのか、どの程度知っていたのだろうか。

ともあれ、波乱のあった万延元年という年は小説の題材としても使われている。大江健三郎の“万延元年のフットボール”があり、それを受けて筒井康隆は、斬首された井伊直弼の頭部をラグビーボールに見立てた奇想天外・荒唐無稽な短編“万延元年のラグビー”を書いている。


川の土手上の道では、私の行く手をふさぐようにイモムシが横断中だ。こんな時のために買っておいたイモムシガイドブックで確認すると、これはサトイモの葉などを食する蛾の幼虫、セスジスズメだ。我が家の狭い庭にも発生して、サトイモ科の園芸植物を壊滅寸前まで追い込んだことがある憎っくき虫である。

ところで、蝶と蛾の分類上の違いは明確ではない、と聞いたことがある。きれいなのが蝶で気持ち悪いのが蛾という感覚的な違いは、蝶も気持ち悪いという人がいるので適切ではない。生態の違いとして主に昼間活動するのが蝶で、夜間に活動するのが蛾という分類ができるのだが、これには例外があって、昼間活動する蛾もいる。しかし逆のケースで、夜活動する蝶は存在しないことから、“夜の蝶”は昆虫ではなく人類の一形態であることが生物学的に正しいとされている。

セスジスズメの幼虫

東京大学総合研究博物館で
撮影した見事な蝶標本

さて、かわいそうな名前の植物の第5弾だ。これまでの4種は、ワルナスビ(悪茄子)ヘクソカズラ(屁糞葛)ヤブカラシ(藪枯らし)またの名をビンボウカズラ(貧乏葛)ハキダメギク(掃き溜め菊)だった。そして今回は、3年越しでようやく見つけたこの植物。茎にびっしりと小さなとげが生えており、少し触れただけでもとげが手に絡みついて「いてててっ」と叫ぶはめになる。

この植物の名はママコノシリヌグイ(継子の尻拭い)。かわいくない継子の育児に疲れた人が、とうとう堪忍袋の緒が切れて(今風に言えばキレて)「ったくもぉ!この草でこいつの尻を拭いてやるぅぅっ!!」と叫んだ(実際に拭いたかどうかは定かでない)のが名前の由来とされている。トゲトゲの草でお尻を拭くという斬新かつ残酷な発想に感心する。いや、感心している場合ではありません、やってはいけないことです。幼児虐待です。では、手でつかむことさえ痛くて難しいこの草で、赤ちゃんの柔らかいお尻を拭くところを想像してみましょう。ほら、お尻のあたりがむずむずしてきますね。

2018年10月

【参考文献】

  • イモムシガイドブック 安田守著 文一総合出版
  • 今回の走らんかスポット