走らんか副社長
【番外編(連載112回)】

自粛中 海の生物

いつ終わるとも知れぬ自粛生活が続いているので、街道歩きはお休みしたままだ。これまで、道路沿いで見かける植物についてはたびたび取り上げてきたが、今回はふだん書く機会のない海の生き物、しかも食用になっている生物について書いて(+描いて)みよう。


1.棘皮動物の代表 ウニ(雲丹)

すしネタでも高級な部類に入るウニだが、中でもおいしいのは、かわいそうな名前をつけられているバフンウニ(馬糞雲丹)だ。たぶん丸くて茶色をした形と色が似ているのであって、味や香りや食感が馬糞そっくりというわけではないだろう(たぶん)。

ところで、我々がウニとして食べているのは、生殖巣の部分だ。では、そのウニはオスかメスか、つまり精巣なのか卵巣なのか、と考えたことはあるだろうか。魚の場合なら、白子も卵も食べることがあるが、両者の味は明らかに違っている。しかし、ウニの場合はその味の違いを意識することはない。

ならば、ウニはオスメスの区別がない雌雄同体かというとそうではなく、れっきとした雌雄異体なのだ。目利きの人によるとオスメスは見分けられるらしいのだが、一般人はどちらなのかを意識することなく食べている。このように、男女の違いはあっても区別せず、どちらにも共通していることを、“ウニの性”という意味でunisex(ユニセックス)という言葉が生まれている。最近では男女の衣料品を扱うUNIなんとかという店も人気だ。


2.甲殻類の代表 カニ(蟹)

カニの脚はおいしいが、私のような酒飲みにとっては、カニ味噌をつつきながら日本酒を飲むのも乙なものだ。欲を言えば、もっとカニ味噌たっぷりのカニがいてほしい、と思うのだが、それは無理な相談なのだ。

漁師につかまるカニはそもそも味噌(脳みそ)が小さく、知能が低いからこそつかまったのだ。海底にはもっと味噌(脳みそ)が大きく賢いカニが生息しているのだが、そんなカニは漁師の動向をすばやく察知して逃げるので網にかからない。かくして、我々が食するのは残念ながら味噌が少ないカニばかりなのだ。

冬になるとスーパーのチラシに“ゆでタラバガニ”が登場するが、“ゆでたら馬鹿に”なるのではなく、もともと馬鹿なのですね。


3.軟体動物の代表 イカ(烏賊)

当社の本社がある佐賀県唐津市の名物の一つがイカだ。旧呼子町の“呼子のイカ”は全国的に有名だ。はじめて当地でイカの刺身(活き造り)を目にした人は、包丁を入れられたばかりでまだ意識混濁状態のイカは、白色ではなく透明だということにほぼ例外なく驚かれる。

活き造りにされるイカの種類は季節によって違い、ケンサキイカ、ヤリイカ、アオリイカなどが使われている。名前のケンサキやヤリは、細長い姿を剣先や槍に例えたわけだが、アオリイカの語源は何だろうか。他のイカに異常接近したり進路妨害したりする“煽り烏賊”(いかにも悪そうな賊だ)かと思ったが、違うようだ。漢字で書くと“障泥烏賊”。障泥とは、馬の鞍に掛けて泥はねを防ぐ馬具の一つ。平たく言えば競馬のゼッケンのような平たいもので、平べったいイカに似ているからそんな名前が付けられたようだ。

ところで、昨年からイカの不漁が続いている。呼子だけでなく、全国的に記録的な不漁だと伝えられている。こうなると、海外の冷凍ものを国産と偽って売る悪徳業者が出てこないか心配だ。そんな不届き者に怒るとしても、イカに罪はないのだから私はあえて敬称をつけて呼びかけたい。

あなた、それはイカさまですよ。


※注意 本編には虚偽の情報が多数含まれている可能性がありますので、信用しないようお願いいたします。

2020年8月