走らんか副社長
【北国街道 長野行】

105区(連載142回) 長野~善光寺

長野から善光寺までというタイトルを見て、善光寺は長野にあるのだから走るまでもないのではないか、と思われた方がいらっしゃるとしたら、それは正しい。
 言い訳をすると、この原稿を書いているのは2月で、天気予報では明日の長野県地方は雪、予想最低気温は氷点下何度と冷え込むでしょう、などと言っている。この欄の目的は観光ではなく、ひたすら外を歩くことなので、氷点下とか雪とかいう単語を聞くと、とたんに行く気が失せてしまう。寒いからいやだなどと言うと長野の人に申し訳ないのだけれど、前回書かなかったネタでこの回をしのぐこと、お許しいただきたい。

大きな駅にはコインロッカーがある。駅の一角に金属製の箱がずらりと並んでいる無味乾燥な光景なのだが、JR長野駅のコインロッカーはただの箱ではない。長野県内の市や町のキャラクターが勢揃いした愉快な箱なのだ。ほとんど知らないものばかりなのだが、知っているものがあった。中段の左から2番目は坂城町の“ねずこん”だ。

コインロッカー


坂城町にはこの連載の101区で行ったのだが、ねずみ大根というのが名産だというので、わざわざ取り寄せて食べた。大根おろしにして醤油を少しばかり、あっもちろん宮島醤油をかけたところ、ピリリと辛い刺激があって美味でありました。そのねずみ大根を略して“ねずこん”。すばらしいネーミングと、ずんぐりと短い大根の形を模したかわいい姿に感心して思わずクリアファイルとピンバッジを買ったのだった。
 ねずみは、どうしてこう愛されるのだろうか。あくまでも実物ではなく、キャラクターの話なのだが、代表的なのは千葉にあるのに東京なんとかという所に住んでいるMマウス。あるいは、いつも猫のT君をからかっているJリー。日本生まれだと、とっとこH太郎もねずみの仲間だ。それから、歴史上の人物だと鼠小僧次郎吉なんていうのもいて、彼は罪人には違いないけれども情状酌量の余地はたくさんあって、憎めない奴だ。
 でも皆さんにかわいがられているのは、キャラクターに限っての話で、実物のネズミは目の敵にされている。ところが実は私、小学生の頃にネズミを飼っていたことがある。実験用のハツカネズミを木の箱に金網を張って飼っていたのだ。少しの間だけだったので、どんなエサをやっていたのかもほとんど忘れたのだが、スパゲティを箱に差し込んでおくと、カリカリカリと音をたてて麺がどんどん短くなっていくのを見ておもしろかったのは覚えている。


駅のコインロッカーからネズミの話になったが、話を長野に戻そう。長野駅から北へ善光寺に向かって参道が伸びていて、まっすぐ行くとお寺に着くのだが、本堂に行く前にちょっと左にそれると池があって、今は冬なので葉は枯れているけれども一面がハスだ。これは大賀ハスといって、大賀博士という人が遺跡から2000年以上も前の種を発掘し、発芽に成功して栽培したものだ。それがどうしてここにあるのだろう、と調べたところ、もともとは千葉県で発掘された種だが、繁殖したものが全国各地に移植されたそうで、その一つが善光寺なのだ。


 ところで、最近ではあまり聞かないが、“はすっぱ”という言葉がある。おしとやかで上品な、ではない女性のことを“はすっぱな女”と言う(念のためにお断りしておきますが、これはあくまで国語の話で、私が言っているわけではありませんよ)。“はすっぱ”は漢字で蓮の葉と書くのだが、私はどうして蓮の葉がそんな意味になるのか、と考えたことがある。ハスの葉は薄っぺらだけどよく水をはじき、雨が降ると水玉が葉の表面をころころと転がる。だから、見かけは薄っぺらだけれど、言い寄ってくる男はきっぱりと弾き飛ばす、そんな女性のことを言うのか、と考えた。
 ところが辞書をひくと違った。お盆になると蓮の葉はお供え物を乗せるために使うので、蓮の葉が売れる。そこで、お盆の前だけ働いてもらう臨時雇いの売り子のことを蓮っ葉と言い、それが転じて軽い存在の女性をさすようになったらしい。
これはどうも納得できないことだ。私どもの工場で考えると、繁忙期、つまり今月中にこれだけの量を作らなければならない、たいへんだ、という時に一所懸命に働いていただく方、ほんとにありがたいです。そんな方たちを、はすっぱなパートさんだなどと言っては罰が当たる。しかし本来の日本語の使い方としてはこれが正しいとは、それはもともとの言葉の意味が現代の社会には合わなくなったということだ。

それが蓮の葉だけれど、蓮の根と書くと、それは本当は根ではなくて地下茎なのだが、レンコン(蓮根)だ。レンコンは佐賀県も産地の一つだが、出荷額の一位は茨城県だ。霞ケ浦の周辺にレンコン畑がひろがっており、かすみがうらマラソンのコースの後半はレンコン畑のそばを通るので、私も知っている。
レンコンには穴があるが、どうして穴が開いているのだ、大きくても中はすかすかじゃないか、などと怒る人がいる。怒るだけではなく、恨みを持っている人も多いらしい。
レンコンを恨んでどうするのだと思ったのだが、それはレンコンじゃなくて怨恨だ、とか。

2023年2月

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